

保育園の費用、どう計算するの?年収で変わる?無償化についても解説します
これから子どもを保育園へ預けて仕事復帰しよう、あるいは仕事を見つけて働きはじめようというとき、気になるのが保育料ではないでしょうか。お給料のほとんどが保育料に消えてしまう、というような声も聞かれます。
今回は、預け先によって大きく異なる保育料について、また「保育の無償化」施策についても丁寧に解説します。
幼児教育・保育の無償化
幼児教育・保育の無償化は、子育てしている家庭の経済的な負担を減らすことで、少子化に歯止めをかけるという国の方針によって設けられた制度です。日本の人口が減っていく中で子育て中の女性にも働いてもらい経済を活性化させたいけれど、幼児期の保育や教育は将来活躍する大人の育成に大きな影響を及ぼすので、良質で費用が安く、利用しやすい幼児教育・保育サービスにするために、このような制度が設けられました。
内容としては、制度名にあるように、幼稚園、保育所、認定こども園などを利用する3歳から5歳児クラスの子どもの保育料が「無償」になります(住民税非課税世帯の0歳から2歳児クラスまでの子どもの保育料も無償)。ただし、小学校や中学校のような義務教育ではないため、現状では幼児を教育・保育する施設は種類がいくつもあります。
大きく分けると、幼稚園、保育園、幼稚園と保育園の要素を合わせたこども園、シッターなどその他、というイメージが一般的ですが、この制度の下では施設をさらに細分化して異なる対応を行っています。
利用者としては全容を把握する必要性は低いので、自分の子どもを預けている施設、あるいは預ける可能性がある施設について、確認してみるようにしましょう。内閣府が運営する「幼児教育・保育の無償化特設ホームページ」では、家庭ごとの支援内容がわかる早わかり表や、シミュレーションが用意されています。
<幼児教育・保育の無償化、うちの子の場合は?>
1年間にかかる平均額は?
幼児教育・保育の無償化によって、支払う保育料は全体としては低下するものと見られますが、払っていけるかどうか心配だから保育料を知りたいという段階では、少な目に見積もるのは少々危険。ですので、これまでの保育料の全国水準をみておきましょう。
統計によれば、保育所(主に認可保育園)を利用する子どもの保育料は、一人当たり月額2万1,138円*1、年額にするとおよそ25万円。認可外の保育施設を利用する子どもは、月額4万1,931円*1、年額にするとおよそ50万円です。
幼稚園は、公立の場合月額5,170円*2、年額でおよそ6万円。私立の場合は月額1万7,994円*2、年額でおよそ22万円となっています。
*1 厚生労働省「地域児童福祉事業等調査(2015年)」より。認可外保育施設の月額利用料はその他の認可外保育施設0歳~6歳までの値を単純平均したもの
*2 文部科学省「子供の学習費調査(2016年)」より、授業料(年額)のみを1/12したもの
金額はどう決まる?保育園の種類によって決まり方が違うの?
小学校や中学校、塾や習い事などでは、どの子どもも基本的には同じ料金を支払いますが、認可保育園などの施設では、一人ひとりの保育料が異なります。
子ども・子育て支援新制度の施設
ここでは、保育料の金額がどのように決まるのかを解説しますが、そのためにまずおさえておきたいのが、2015年にスタートした「子ども・子育て支援新制度」です。この制度では、幼児の教育・保育の場を「幼稚園」「認定こども園」「保育所」「地域型保育」に区分して、います。
保育料は、施設の区分ごとに国が定める上限の範囲内でそれぞれの自治体が「保護者の収入」「子どもの年齢」「兄弟姉妹の数」「預かる時間」などを考慮して決めています。なんとなく想像がつきそうですが、保護者の収入が高い、子どもの年齢が低い、兄弟姉妹の数が少ない、預かる時間が長い方が保育料は高くなります。
ちなみに、この制度では、子どもの年齢や保育の必要性に応じた3つの区分(1号~3号)を設けて認定を行っていますが、この認定を受けたからといって、保育所へ入ることができると約束されたわけではありません。とくに都市部では保育所のキャパシティが十分でないため、自治体の定める指数(点数)が高い人から入所できるシステムになっています。
いわゆる“保活”は、自分の住んでいる自治体の情報を集め、点数を上げ、希望の保育所へ入れなかった場合の選択肢を増やしておくことですね。混同しやすいのですが、今回の記事で取り上げている「保育料」はあくまで「入所した後」のことで、入所のための点数とは関係がありません。
幼稚園の料金例
国が定める幼稚園の保育料(月額)の上限額は、保護者の収入によって5階層に分けられます。0円~2万5,700円となっていて、条件を満たす兄弟姉妹の数によって、この金額の半額または無料となる優遇があります。
国が定めるのはあくまで上限額ですので、これ以下の保育料を設定している自治体が多く、例えば世田谷区の場合なら区立幼稚園は0円~1万円、私立幼稚園は0円~1万8,700円となっています。
保育所の料金例
同じく保育所の保育料(月額)上限額は、子どもの年齢が3歳未満か以上かの区分があり、保育時間によって「標準時間」「短時間」に区分され、さらに保護者の収入によって8階層に分けられ、0円~10万1,000円となっています。
幼稚園と同様に、条件を満たす兄弟姉妹の数によって、この料金の金額または無料となる優遇があります。世田谷区の例では、子どもの年齢によって「3歳未満児」「3歳児」「4歳児以上児」、保育時間によって「標準時間」「短時間」に区分した上で、さらに保護者の収入によって保育料(月額)は0円~7万9,000円に細かく分かれます。
幼稚園に比べて保育園の方が料金の最高値が高く、階層も細かく分けられています。
おおよその保育料を知るには?
前述のように、保育料は国の定める上限の範囲内で自治体ごとに決めてよいことになっています。そのため、事前におおよその保育料を知っておきたい場合には、自身の住んでいる市区町村の保育料を確認する必要があります。
多くの場合、Webサイト上で公開されているので、最新の保育料表を見つけること自体はそれほど難しくありません。ただ、やっかいなのは、表の中から自分の収入に該当する区分を探し出すこと。というのも、単純に世帯収入が記載されているのではなく、「区市町村民税所得割額」として記載されているからです。
「区市町村民税所得割額」を知るには、会社員なら毎年6月頃に届く「給与所得等に係る特別区民税・都民税(市民税・県民税)特別徴収税額の決定・変更通知書」の該当欄を確認しましょう。その際、自治体が対象外としている控除項目があれば除外します。自治体が通知書の見方をわかりやすくWeb上で説明している場合もありますし、共働きであれば二人分の通知書を手元に用意した上で問合せをすれば、目安となる保育料がわかる情報が得られるでしょう。
たとえば、派遣社員(フルタイム勤務)のAさんが2歳の子どもを保育所に預ける場合の例でシミュレーションしてみます。
<派遣社員(フルタイム勤務)のAさん、会社員の夫、世帯年収550万円*、子ども2歳、杉並区在住の場合>
杉並区の場合、子どもの年齢は「0歳児」「1・2歳児」「3歳児以上」の3区分、保育時間は「標準時間」「短時間」、保護者の収入はA~C、D1~D29の32階層、保育料は0円~9万2,400円です。派遣社員(フルタイム勤務)のAさんの場合は、「1・2歳児」「標準時間」「D11」に該当し、保育料(月額)は「2万8,000円」になります。
※杉並区の保育料表階層D11に該当するものとします。保育料の対象となる所得割額は、各種保険の控除額や住宅ローンの有無などによって変わりますし、自治体により計算方法が異なります。実際には家庭ごとに状況が違うため、詳しくはお住まいの自治体にご確認ください。
子ども・子育て支援新制度外の施設の保育料
ここまで解説してきた子ども・子育て支援新制度は、保育料を知る上で欠かせないものですが、残念ながらすべての施設をカバーしているわけではありません。
制度の対象外の施設の中で、とくに関係がありそうなのが(制度対象外の)幼稚園と、認可外保育施設です。保育料は施設ごとに自由に決められ、教育・保育の中身も実にさまざま。申し込み先も自治体ではなく、それぞれの施設になります。制度対象となる施設とは異なり、保護者の収入は関係なく、基本的に同じ教育・保育内容であればどの子も同じ金額です。全体的には制度対象となる施設よりも高額で、中には子ども一人当たり月額10万円を超えることもあります。
保育料はwebサイトなどで公表している施設もあれば、説明会などの参加者だけに知らせる施設もあり、「認可保育園に入所することができなかったら、認可外の保育施設を利用するかも知れない」といったケースでは、通うことができる範囲で1つ1つの施設について調べる必要があります。
保育料はどこに払うの?
保育料は、子どもを預かってくれている施設に払うものと思われがちですが、必ずしもそうではありません。認可保育園や公立幼稚園、公立こども園などの保育料は自治体へ払い、認可外保育施設、私立幼稚園、私立こども園などは施設へ直接支払います。
この辺りは少々複雑で、申し込み窓口は自治体だけれど保育料の支払いは直接施設へというケースもあるので、具体的な施設名を挙げて自治体の窓口に問い合わせると分かりやすいでしょう。
<主な施設の保育料支払先>
認可保育園→自治体へ 公立幼稚園→自治体へ 公立こども園→自治体へ 認可外保育施設→各施設へ 私立幼稚園→各施設へ 私立こども園→各施設へ 幼児の教育・保育施設の種類はさまざまで、保育料1つとっても簡単には理解できないかも知れません。混乱してしまったときは、実際に施設へ足を運んでみることをおすすめします。
多くの施設は見学することができるので、ここに子どもを預けたいか、小さな子どもを連れて雨の日も雪の日も通うことができるか、その場所で自問してみましょう。そうすると、どの施設について知りたいかはっきりするので、情報収集が楽になるはずです。
※ 本ページに記載されている情報は2019年9月時点のものです
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執筆者プロフィール 國場 弥生(ファイナンシャル・プランナー)
ファイナンシャル・プランナー
(株)プラチナ・コンシェルジュ取締役。証券会社勤務後にFPとして独立し、個人相談や雑誌・Web執筆を行っている。All Aboutマネーガイドも務めており、著書に「誰も教えてくれない一生お金に困らないための本 」(エクスナレッジムック)などがある。