眠れないのは「産後うつ」?周囲の家族も知っておきたい。受診の目安や対処法とは
眠れないのは「産後うつ」?周囲の家族も知っておきたい。受診の目安や対処法とは
公開日 2018/11/30
更新日 2019/10/29

眠れないのは「産後うつ」?周囲の家族も知っておきたい。受診の目安や対処法とは

「ひとりでがんばらないで」―厚生労働省の調査によると、「子どもを育てていて負担に思うことや悩みがある」という人は約9割。特に産後まもない時期は、お産疲れに加えて急激なホルモンバランスの変化、慣れない育児スタートなどが重なり「産後うつ」などメンタルの不調をきたす心配があります。
ここでは、どうして「産後うつ」が起こるのか、いつ頃なのか、どんな状態になったら医療機関を受診すべきか、そして予防と対策について、母子保健の専門家にお話を伺いました。

お話をお聞きした人:NTT東日本関東病院 母性看護専門看護師 長坂桂子さん
執筆:江頭 恵子(ライター)

産後すぐだけでなく産後4か月頃まで要注意

  • 女性のライフスタイルのなかでも、もっともストレスがかかりやすい産後。約10か月間、赤ちゃんを成長させるため変化した子宮、全身、ホルモンは、出産を境に6~8週間という短期間で妊娠前の状態に戻ろうとします。同時に母乳分泌にかかわるホルモンは急激に増加。女性は妊娠~出産の時期に、体も心もホルモンも役割も大きなアップダウンを経験するのです。

  • 出産後は生活がガラリと変わり、産後2週頃に精神状態が最も不安定になりやすいという調査結果があります。産院を退院し、慣れない育児と赤ちゃん中心の生活で、ホルモンバランスも大きく変わり、育児不安が高まりやすい時期。また、里帰り分娩や実家で産後を過ごした方にとって、実家から自宅へ戻る産後1か月頃も精神的に不安定になりやすい時期です。「夫は仕事で帰宅が遅いし、自宅に戻りひとりで子育てができるの?」と不安がつのります。

  • では、いつになったら育児に慣れてきたと感じるのでしょうか? 目安は産後4か月頃です。赤ちゃんは生後3か月頃に首がすわり抱っこが楽になります。また、生後4か月頃には昼夜のリズムができ夜に寝る時間が増えます。このころになると、親も“少し”まとまって眠れるようになるので、生活が少し楽になってきたと感じる人が増えます。なので、産後対策は4か月をめどにするといいでしょう。

  • 途切れ睡眠は疲れを蓄積させてしまう

    人は睡眠を取ることで疲れを回復します。例えば日中に10時間働いても、就業後は休めます。ところが、産後まもないママは昼夜を問わず1日に12~15回の授乳があります。授乳~げっぷ~おむつ替え~寝かしつけの平均時間は1回40分。それが細切れに、いつあるかわからない状態で続くのです。こんな細切れ業務はこれまでやったことがないうえに、いつ眠れるかもわからない。今まで自分が疲れを取るパターンとは全く違う睡眠パターンとなり、体力がないと余計に疲れが溜まります。

  • 夜まとめて眠れなくても、1日のトータルの睡眠時間が6~8時間取れていればいいのですが、夜中に眠れず、昼間も家事などで眠れていないなど、3~4時間睡眠の日が5日続くと、不安や抑うつ傾向になりやすくなります。里帰り中は、夜間眠れないときがあっても、昼寝などをして回復できていたものが、自宅に戻った途端、昼寝の時間が作れず、疲れが取れず、メンタルに不調をきたすことがあるわけです。

もしかして「産後うつ」? 注意すべき症状とチェックリスト

  • 出産後、3~10日頃、情緒不安定になりわけもなく涙が出てくる、不安感や集中力の低下を感じるなどの一過性の症状が出ることもあります。多くは数日、長くても2週間と続かないことが特徴ですが、これは、マタニティ―・ブルーと言われ、3~5割程度の産後ママが経験するよくある状態です。しかし、次のような症状や考えが浮かんだら、注意が必要です。

  • 誰かがいれば安心だが、誰もいないと不安でひとりでいられない

    考えがまとまらない

    興味や関心がなくなり、新聞やテレビを見ようと思わない

    食欲がなくなる。実際に食べられずに、体重が減る

    寝ようと思って眠れない

    赤ちゃんについて過度に心配になる

    こんなことでは母親失格と、自分を責めてしまう

    赤ちゃんが自分を陥れようとしていると感じる

    消えてしまいたいと思う

  • このような状態になったとき、自分一人で対処しようとせずに、周囲に助けを求め、医療機関を受診してほしいのですが、困っているのに周囲に「助けて」と言えないことが多々あります。ご家族や周囲の人は、本人が何も言わないから大丈夫と思わずに、メンタルに不調が生じると、普段はできることもしにくくなり、ヘルプを出せない状況があることも理解しましょう。

  • 医療機関を受診する目安は?

    下記サイト「エジンバラ産後うつ質問票」の10の質問に回答すると「産後うつ」のリスク度がわかります。入力は簡単で、点数に応じたコメントや、医療機関の受診の目安も出てきます。

  • エジンバラ産後うつ質問票

  • どの病院へ行くべき?

    上のチェックリストにあるような様子が見られたら、医療機関に相談しましょう。もともと「うつ」など精神疾患があり、かかりつけ医(精神科・神経科・心療内科・メンタルクリニックなど)がある場合はかかりつけ医へ、そうでない場合は、まず出産した産院、妊婦健診を受けていた産婦人科に相談してみるとよいでしょう。出産すると、産後4か月までに、地区担当の保健師が家庭訪問をしてくれます。地区担当の保健師、または保健センター等に相談することもできます。

  • 「産後うつ」は精神疾患の既往歴がある人のリスクが高いのですが、既往歴がない人もなります。産後1年間で死亡した妊産婦の主な死因の1位は自殺で、産科異常による妊産婦死亡やがんや心疾患などの病気よりも多いことがわかり、国や自治体、学会でも予防に向けた対策が取られています。「産後うつ」は早期に対処することが重要です。

  • 声をかけてはいけないNGワード

    本人がつらいと感じたら、家族だけで解決しようとしないことも重要です。家族がよかれと思ってかけた言葉も、つらい状態の本人にとっては、逆効果になることもあります。たとえば、こんな言葉です。

    「気の持ちようでどうにかなるだろ、気合が足りない」(体育会系の夫より。本人はどうにもならないのでつらいのです)

    「赤ちゃんが泣いているよ!(と、抱っこすることを示唆する)」(抱っこする気力もないのです)

    「いつまでも実家にいないで、そろそろ自宅に帰ってひとりで育児をする練習をした方がよいんじゃない」(遠距離にいて本人としばらく直接会ってない夫より。直接話していないので、本人のつらい状況がわかっていない)

    「精神科に行くのは抵抗があるでしょ。うちの親族で精神科にかかった人はいないわよ(精神科受診を妨げるメッセージ)」(家族からのネガティブなメッセージがあると、受診しようと思えない)

    「おっぱい、足りていないんじゃない?」(つらい時には、母親失格の烙印を押されたように感じる)

  • 医療機関を受診しない理由として、授乳中だから治療薬を飲みたくない、とためらう人もいますが、授乳中でも飲める治療薬があるので、まずは相談を。早めの受診が早めの回復につながります。メンタルの不調はこじらせると長期化するうえ再発しやすくなるので、初期にしっかり治すことが大切です。早期対処で、良くなります。

「産後うつ」を防ぐために、家族ができること

  • 産後は誰しも「産後疲労」があります。その疲労が蓄積し心身の回復が難しい状態になると、「産後うつ」に突入する可能性があるわけです。「産後うつ」予防のための最大の秘訣は、「ママを疲れさせない」こと。徹底的に「産後疲労対策」をとりましょう。妊娠後期には、家族で産後疲労対策を考え、疲労緩和のための備えができていると感じることは、妊婦さんにとって大きな安心につながります。

  • 産後1か月くらいまでは、ママは授乳やおむつ替えなど赤ちゃんのお世話だけに専念でき、ほかの家事は減らせる方法を考えることが大事です。

  • 【産後の「ママを疲れさせない」ために、周囲が心がけたいことの例】

    妊娠中に一緒に産後疲労対策プランを検討しておく

    産後は産後疲労対策のPDCAサイクルをまわす(定期的に見直す)

    家事分担を減らす(家事が減ると睡眠が取れる)

    育児休暇制度について調べておく

    「寝ていていいよ」と言う(ママの後ろめたさを取り払う)

    ママが安心してタイムアウトできるよう、3時間は育児担当できる(育児技術を習得しておく)

    授乳クッションや寝やすい寝具を準備する(よい姿勢で疲れがたまりにくい、効率よく疲れがとれる)

    ごはんをすぐ食べられるよう準備(レンジ加熱で食べられるといい)

    おっぱいや授乳については、指示的意見を言わない

    上の子の保育園・幼稚園・習い事の送迎担当を決めておく

    夕食を一緒に食べられる時間に帰宅する(一番疲れる夕方の家事・育児・沐浴・上の子のお風呂を分担できる。家族が子どもの世話をすることで、ママがゆっくりお風呂に入ることができる)

    上の子を遊びに連れていく

    外部サービスの利用も選択肢として検討する(ヘルパー、ベビーシッター、産後ドゥーラ、ファミリーサポーター、一時保育、食事宅配サービス、買い物宅配サービス、など)

  • 産後まもないママは「母乳」で悩むことが多い

    母乳でも人工乳でも赤ちゃんは元気に成長します。これは大前提ですが、母乳育児中のママにとって、赤ちゃんが泣く⇒母乳を与える⇒赤ちゃんが寝ると、母親の役割が果たせたと実感させてくれます。一方、赤ちゃんが泣く⇒母乳を与える⇒赤ちゃんが泣き止まない場合、おっぱいが出ていない⇒赤ちゃんの欲求にこたえられない=母親失格とまで思ってしまうこともあるのです。パパや祖母たちは、ママの体のことを心配し、よかれと思って「足りてないならミルクを足したら?」と声をかけることがありますが、この言葉に傷つくママがいるのは、こういうわけです。産後2週間のママの悩みのデータを見ると「おっぱい」に関する悩みが多いことがわかります。

  • 産後2週間 ママ 悩み
  • *出典:西巻滋(2014)よりよい2週間健診のために 母親の期待に応える、助産雑誌68(8),694-699

  • ママに声をかける時には、母乳が足りている、足りていない、評価的なコメントはさけ、「げっぷさせておくから、少し横になったら」などと、体のことをいたわる声かけにするといいですね。

    また、授乳に関しては、専門家の助言がほしいと思うママも多いようです。もしおっぱいのことで悩んだら、出産施設の産後健診や母乳外来、地域にある助産院の乳房ケアを受けたり、外出が難しい場合は、出張助産師による自宅での乳房ケアを受けるといいでしょう。「日本助産師会」のサイトにリストがあります。

  • 全国助産所一覧

    日本助産師会公式サイトより

外部支援を入れ産後のリスクマネジメントを

  • 妊娠・出産・育児は、家族にとって喜びにあふれた幸せな時期であると同時に、カラダやココロの不調が生じ、変化やストレスの多い時期でもあります。産後2年間は離婚が多いことから、夫婦の危機をもはらんでいるといっても過言ではありません。

  • それらのリスクはゼロにはなりませんが、マネジメントしリスクを軽減することは可能です。リソースは安心して利用できること、自分にあったものであること、選択肢やバリエーションが多いことが理想です。パートナーや両親など親族は頼りになりますが、実家が遠方、親が高齢、親が闘病中など、サポートを頼めない状況の方も珍しくありません。今どきの育児は、ヘルパー、ベビーシッター、産後ドゥーラ、ファミリーサポーター、一時保育、食事宅配サービス、買い物宅配サービスなどの外部サービスも視野に入れることがおすすめです。

  • 外部サービスを受けることのメリット

    ワンオペ育児をしていると「なんで自分だけ…」とみじめな気持ちになったり、疲れが取れなかったりすることがあります。そんなときも外部サービスを受けるとこんなメリットがあります。

  • ・産後ドゥーラさんに赤ちゃんの沐浴やお世話をしてもらうと、休む時間ができて体がらくになる

    ・ヘルパーさんに掃除洗濯をしてもらうと、部屋が片付いてパートナーとのけんかの頻度が減る

    ・食事の宅配サービスを利用すると、朝から夕食づくりのことを考えなくてよいので、生活に余裕ができる など

  • 産後ケアの外部サービス情報は、公的なものであれば、市区町村から発信されています。民間のものも含めて、お住まいの自治体にはどんなケアサービスがあるか調べてみましょう。産後ケアを支援する補助金制度なども多いので活用するといいですね。

  • 「産後こそがお金のかけどき」と心得ましょう。出産準備にはお金がかかりますが、ぜひ、外部サービスを活用するための予算もたてておきましょう。もしママの体調が悪化し、それが長引いて職場復帰が遅れると、経済的負担はもっと大きくなります。外部サービスの費用は、リスク回避のために必要な投資だと考えてください。

  • 妊娠中からパートナーと家事マッチングについて話し合う

    家事は分担率にとらわれず、お互いの条件や得意・不得意がかみあうよう話し合いましょう。人がどうしているかは関係ないので、自分達ごととして、何ができて何ができないかを話し合うこと。そして共に家事育児を行い、仕事や生活におけるそれぞれの役割が発揮しやすいように助け合うことが大切です。

  • できれば、赤ちゃんを家族に迎える前の妊娠中にやっておきたいですが、産後でも遅くありません。もしママが仕事に復帰するのなら。その前にも話し合うことをおすすめします。復帰後も話し合いは定期的に行い、マッチングに無理がないか見直します。ママも週に1回は残業をしたいなど、状況も変わってきます。そのつど、マッチングを交代する、夫婦のどちらもできないものは外注するなどして、外部支援や時短家電などを上手に活用しましょう。

  • ※本ページに記載されている情報は2019年9月30日時点のものです

  • 長坂桂子さん(看護師、助産師)

    お話をお聞きした人 長坂桂子さん(看護師、助産師)
    NTT東日本関東病院看護部 母性看護専門看護師、看護学博士
    妊娠中〜産後の腰痛ケア、妊娠中〜育児期の運動、更年期ケア、周産期メンタルヘルスなどの研究・教育・講演活動を行う。

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