

【ママ医師監修】妊娠中のストレスが胎児に与える影響は?原因・解消法アドバイスも
妊娠中に抱えがちなストレスの原因や胎児に与える影響などをママ医師が解説します。
妊娠初期のつわりやホルモンバランスの変化など、妊娠中は様々な心身の不調が起こりやすいもの。
妊娠中のストレスとどのように付き合えばいいか、解消方法もアドバイスします。
妊娠中のストレスが胎児に与える影響
妊娠中のストレスは仕方ないこととはいえ、あまりにも強いストレスは赤ちゃんにも悪影響をもたらすことがあります。
ストレスは切迫早産や妊娠高血圧症候群などのリスクになるばかりでなく、妊娠中に不安やストレスが大きかったママの子どもは情緒が不安定になりやすいとの報告もあります。
妊娠中にストレスを感じやすい理由
妊婦でいられる時間は、人生の中でごくわずか。その貴重な時間においては、できればお腹の赤ちゃんの成長を実感しながら心穏やかに過ごしたいものです。
しかし、妊娠中はストレスを感じることも多く、感情をうまくコントロールできず周囲の人に当たってしまうというママも少なくありません。
ただ、妊娠中のイライラは仕方のないこと。次のような理由で、妊娠中は誰でもストレスを感じやすい状態になっているからです。決して自分を責めすぎないようにしてください。
ホルモンバランスの変化
妊娠すると、身体の中では女性ホルモンのバランスが大きく変化します。女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンの2種類があり、女性の規則的な性周期は両者の分泌バランスが変化することで引き起こされています。
エストロゲンは卵子の成熟、子宮内膜の増殖、排卵を促すホルモンで、生理開始後から排卵までの2週間で多く分泌されます。プロゲステロンは子宮内膜を着床に適した状態に成熟させる作用があり、排卵後から生理前に分泌量が増えます。
着床が起こらなかった場合は、プロゲステロンの分泌量が急激に減少し、成熟した子宮内膜がはがれ落ちる「生理」がやって来ます。一方、着床した場合(=妊娠した場合)は、妊娠を維持するためにエストロゲンもプロゲステロンも大幅に分泌量が増えていきます。
しかし、プロゲステロンには心を落ち着かせる「セロトニン」と呼ばれる脳内伝達物質の分泌を抑える作用があるとされています。そのため、プロゲステロンが大量に分泌される妊娠中は、ささいなことでもイライラしやすい状態となります。
睡眠不足
妊娠中は、寝付きが悪くなったり、眠りが浅くなったりする症状に悩まされることもあります。
妊娠初期は、つわりなどによる体調不良が原因で、眠いのに寝付けない状態が続くかもしれません。妊娠中期以降は、胎動や頻繁な尿意で夜中に何度も目が覚めてしまうことがあります。
慢性的な睡眠不足は大きなストレスになるばかりでなく、自律神経のバランスを乱します。その結果、ちょっとしたことで気分が落ち込んだり、逆に普段なら気にならないようなことにイライラすることが多くなります。
それがまたストレスとなって、さらに自律神経バランスが乱れる……という悪循環に陥ってしまうこともあります。
妊娠中のストレスの原因
妊娠中はただでさえストレスを感じやすい状態ですが、さらに多くの不安や心配が重なってストレスを助長することがあります。
初めて妊娠する人も2人目以降を妊娠中の人も、出産や育児に対する何かしらの不安や心配を感じるものですが、具体的にはどのようなことがストレスの原因(ストレッサー)となっているのでしょうか。
2006年に女性労働協会が行った、890人の妊婦さんを対象としたアンケートによれば、妊娠中に働いているか、働いていないかによりストレスの原因や程度は大きく異なることが分かりました。
働いている妊婦さんは82.1%が「妊娠に関してストレスがある」と答えたのに対して、専業主婦の妊婦さんは71.4%にとどまったということです1)。
働いている妊婦さんのストレスの原因
共働き世帯が半数を超えた昨今、妊娠中も働く女性が増えています。そうした妊婦さんが抱くストレスの原因は、「育休後の復職や子育てとの両立への不安」が最多です。
育休中の経済的不安や同僚への気遣いなども上位にランクインしており、8割以上の人が働いているからこその不安をストレスと感じていることが分かりました。
また、つわりなどの体調不良、出産・育児に対する不安を感じている妊婦さんも6~7割に達し、仕事に関連する不安と妊娠や出産自体に関連するストレスを同時に抱えているのが現状です。
専業主婦の妊婦さんのストレスの原因
働いていない妊婦さんは、仕事に関連するストレスがない分、妊娠や出産自体に関わる不安や悩みをストレスと感じる割合が高くなります。
特に「つわりなどの体調変化への不安」をストレスと感じるママは約8割にも上り、出産・育児に対する不安、お腹の赤ちゃんの状態に関する不安も働いている妊婦さんより大きいとの結果が出ています。
共通して多いのはパートナーへのストレス
仕事を続ける場合も専業主婦の場合も共通するストレッサーとして多いのが、実はパートナー。573人の妊婦さんを対象とした研究調査2)でも、ストレスの原因として「夫」に関する内容を回答した人が最も多かったと報告されています。
パートナーの妊娠に対する理解や協力のなさなどがストレスとなることが多いようですが、男性は自分のお腹の中に赤ちゃんを宿しているわけではないため、妊婦さんの苦労が実感として分からないのも無理はないかもしれません。
また、パートナーを生理的に受け付けなくなり、その存在自体にイライラしてしまうという女性もいるようです。
そうしたときは家の中でも一人になる時間を作る、家事を誰かに任せて外出するなど、ほんのひとときであってもパートナーから離れてみましょう。
気分がリフレッシュして、いくらかイライラが治まるのではないでしょうか。
妊娠中のストレスとの向き合い方
妊娠中にストレスを感じるのは仕方ないこととはいえ、できれば穏やかな気持ちで赤ちゃんを迎えたいものですね。
上の子がいる場合は、ママが常にストレスを感じてイライラしていると情緒の発達に影響を与えてしまうこともあり得ます。
妊娠中のホルモンバランスや体調不良によるストレスを完全に防ぐことはできませんが、ストレスを助長する原因を少しでも解消してストレスを感じる機会を減らすことは可能です。
筆者の経験も踏まえ、お勧めのストレスとの向き合い方をご紹介します。
働いている妊婦さんは「考えすぎない」ことが大切
働いていると、妊娠や出産に対する不安だけでなく、復職への不安など仕事に関連するストレスも抱えやすくなります。
特にまじめで責任感がある人ほど、仕事に関連するストレスは大きいことでしょう。
もちろん、妊娠・出産を理由に職場に負担をかけたくないという思いは大切です。そのために万全の準備をしておこうと考えるのはごもっとも。しかし、何事も完璧にしようとすると、大きなストレスになってしまいます。
育休後の生活に不安を抱える女性も多いようですが、妊娠中から考えすぎるのは良くありません。
筆者の経験からも、確かに育休明けの仕事と育児の両立は大変でした。しかし、ママも赤ちゃんもその環境に慣れれば意外と何とかなるものです。
妊娠中はその後の生活のことは考えすぎず、パートナーや家族と一緒に仕事と育児の両立ができる環境を整えながら、まずは無事に出産することを考えましょう。
専業主婦の妊婦さんは「外に出ること」を心がけて
専業主婦の場合、仕事を続けている妊婦さんよりも妊娠や出産にまつわる体調の変化や赤ちゃんの様子に不安を抱えやすい傾向にあります。これは、妊娠や出産に関することを考える時間が長いためだと考えられます。
核家族化が進む現在、周囲に話し相手がいないという人も少なくありません。そのような環境で過ごしていると、様々な不安を解消することができずにストレスを感じやすくなってしまいます。
母親学級などで同じ悩みを共有できる仲間を作る、体調が良い日はショッピングなどに出かけて妊娠・出産から離れてみるのもいいでしょう。
妊娠中はこもりがちになる傾向もありますが、たまには外に出て気分転換するのがお勧めです。
過度なイライラや落ち込みがみられる場合は注意
過度なイライラや落ち込みがみられる場合は、うつ病や不安障害などの精神的な病気を発症している可能性も否定できません。これらの病気は妊娠中、7~20%で症状が顕著に現れるとされています3)。
もちろん、妊娠中はストレスがあって当然なので、少々のことで過剰に心配する必要はありません。しかし、ストレスフルな状態になると、自分が抱えているストレスが「少々のこと」なのか、あるいは自身の病気や赤ちゃんへの悪影響をもたらすほどのものなのか、自分では判断できなくなることがしばしばあります。
ストレスの影響については「このラインを越えたら危ない」と明確に線を引けるものではありませんが、それだけに少しでも気になることがあれば遠慮することなく、かかりつけの産婦人科などで相談してください。
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監修者プロフィール 成田亜希子
2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。
参考文献
1)阿南あゆみ・他: 妊娠中の労働による健康影響と心理的ストレス. 産業医科大学雑誌. 2010; 32(4): 367-74.
2)添田梨香・他: 妊娠中のストレスとストレス対処に関する研究. 女性心身医学. 2017; 21(3): 306-13.
3)日本周産期メンタルヘルス学会: 周産期メンタルヘルス コンセンサスガイド2017.
http://pmhguideline.com/consensus_guide/cq01-20.pdf