【専門家に聞く】妊活・不妊治療と仕事の両立を実現する4つの方法
【専門家に聞く】妊活・不妊治療と仕事の両立を実現する4つの方法
公開日 2019/09/11
更新日 2019/10/21

【専門家に聞く】妊活・不妊治療と仕事の両立を実現する4つの方法

妊活や不妊治療を始めたら、仕事は続けられるの?と漠然と不安を感じる人も多いでしょう。不妊で悩む人をサポートする不妊当事者によるセルフサポートグループ「NPO法人Fine」が実施したアンケート(2017年3~8月実施 5,526名回答)によると、96%が「仕事との両立が困難」と回答。うち半数が「不妊退職」を選択しています。

仕事を続けるにはどうしたらいいのか、どんな準備が必要かなど、具体的なお話をFine代表の松本さんにお聞きしました。

監修:NPO法人Fine理事長 松本亜樹子さん
執筆:江頭恵子(ライター)

不妊治療を受けたことがある夫婦は5.5組に1組

  • 晩婚化と出産の高年齢化から、妊活スタート後、不妊治療をする人が増えています。日本産婦人科学会のデータによると、生殖補助医療(体外受精、顕微受精、凍結胚(卵)を用いた治療)で生まれた赤ちゃんは、2016年で5万4,110人。日本で生まれる赤ちゃんの約18人に1人が、生殖補助医療で授かっています。また、不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は5.5組に1組という割合です。職場に結婚している人が5人いたら1人は不妊治療経験者という計算になりますが、治療していることを伏せたままの人も多いようです。

  • 妊活・不妊治療にはステップがある

    これから結婚する人、結婚してもお子さんがまだの人の中には、子どもがほしくなったら避妊をやめればできるのだろうと思っている人がいるかもしれません。しかし、そんなことはありません。年齢をはじめ、いろいろな要因がありますが、妊娠はそんなに簡単にできるものではありません。そして「妊活」を始めるわけですが、妊活にはステップがあります。はじめは「タイミング法」という、排卵日に合わせて性交のタイミングを合わせる方法から。それでも妊娠できない場合に、医療機関にて人工授精、そして体外受精という「不妊治療」へステップを移行します。

  • 不妊治療のステップ

    検査

    必要に応じて精密検査をし、原因がわかれば治療をしながら不妊治療もすすめる。

  • タイミング法

    検査の結果、原因が見つからない場合に検査で排卵日を特定し、医師に指導されたタイミングで性交渉をする。

  • 人工授精

    精子を採取して、病院で処理してから子宮に注入する方法。受精、着床、妊娠に至る経過は自然妊娠と変わらない。体への負担も比較的軽く、費用もほどほど。

  • 生殖補助医療

    体外受精

    卵巣から採取した卵子と精子を体外で受精させ、受精卵を培養してから子宮に戻す方法。受精を確認してから子宮に戻すため、妊娠率は上がるが費用は高額に。


    顕微授精

    1つの精子を卵子の中に直接注入する方法。精子の数が少ないなどの男性不妊にも有効な治療。


    凍結胚移植

    凍結した受精卵を次周期以降に融解して子宮に戻すもの排卵周期の卵巣刺激の影響をうけない、また子宮内膜の状態を整えることができ、妊娠率は向上する。

  • 不妊治療の基礎知識

予定が立たない治療で仕事継続が困難に

  • 妊活を始めても、タイミング法のころは仕事と両立することに特に問題はありません。しかし「人工授精」を始めると両立が大変になってきます。「人工授精」は週に1回程度通院して、卵胞の育ち具合を見て排卵に合わせて人工的に受精をします。

    卵胞の育ちは予測できないため、急に「明日病院に来て」と言われることがあります。すると、仕事も予定がたたないため、大事な会議、出張、クライアントとのアポイントなどが取りづらくなります。また、約束していた仕事をキャンセルせざるを得ないことも増えます。一度で妊娠できればいいですが、「人工授精」での妊娠率は決して高くないため、何度も繰り返すうちに「あの人はどうして毎月、急に休むの?」となり、周囲の同僚との信頼が崩れてしまうこともあるのです。

  •  「人工授精」には精子も必要なので、夫も同伴で病院へ行くか、その日の朝に採取した精子を持参します。ただし、精子は凍結しておくことも可能です。

  • 「体外受精」に進むとさらに両立の難易度が上がる

    「人工授精」でも妊娠できないと「体外受精」へステップが進みます。「体外受精」では卵を育てるための排卵誘発剤の注射が毎日、または1日おき程度の頻度で必要になる場合も。

    自己注射ができるところもありますが、それを選ばない人や選べない病院だと、かなりの頻度で通院することになります。また、採卵(卵子を取り出す手術)をする日は麻酔を使うため、半日は休みが必要。できれば1日休みたいところですよね。そういった理由で、仕事を休む日が増えます。「人工受精」まではなんとか両立を頑張っても、「体外受精」になった時点で、頑張りきれず仕事をやめる人が増えてしまうのです。

  • 職場の理解は少なく「プレマタティハラスメント」も

    Fineの行ったアンケートによると、職場に不妊治療に使える制度があるところは、わずか6%。しかもその中で、制度を使った(または使おうと思う)人は6割だけ。残りの4割は、制度はあっても使えない(あるいは使おうと思わない)とのこと。

  • 「いつ採卵になるかわからないのに、1か月前には休みを申請するルールである」とか、「休みをとっても穴埋めの調整は自分でやらないといけない」など、「当事者からすると、使いづらい内容が多い」ようです。

  • 不妊治療に対する無理解は「プレマタニティハラスメント」にもつながっています。「いまは不妊治療をしないで」「人手がないからいま妊娠されたら困る」と言われる、治療をしていることがわかると閑職に追いやられた…というケースもあります。

  • 妊娠のために早く治療をしたいのに、職場からプレッシャーを受け、やむなく退職に追い込まれることも少なくありません。男性の育児休暇や介護休暇なども同様ですが、たとえ休暇の制度があっても、それを使いやすい社風がないと、ただの絵に描いた餅にしかなりません。いかに、理解者を増やすかが今後の課題となっているようです。

「不妊治療」と仕事の両立、4つの方法

  • 「不妊治療」を周囲の理解なしに行うことは難しいもの。ましてや職場に隠したまま続けるには無理があります。プライベートなことだし言いたくないと思うことも、すでに責任あるポジションにあり部下への示しがつかないなどの思いもあるでしょう。自分自身がキャリアをどう捉えるかという問題もありますが、まずは仕事と両立するためにできることを考えてみましょう。

  • 1 職場に味方を見つける

    同じ職場に理解者がいることは励みになります。信頼できる同僚や上司に話してみましょう。「こういう事情で妊活をしています。できるだけ頑張るけれど、協力を仰ぎたい」とリクエストしてみることが大切です。

  • 言いにくいことだし、プライベートを細かく詮索されるのは嫌でしょうが、未来の職場のためにも口火を切ることは大事。自分だけのことだと思いがちですが、5.5組に1組は不妊治療をしている時代です。職場にはきっと他にも不妊治療経験者がいるはずです。「実は私も」という人が見つかれば、力になってくれることでしょう。

  • 2 治療に使える制度を活用する

    不妊治療のための休暇制度はなくとも、治療に使える制度があるかもしません。通院休暇が認められていたり、フレックス出勤ができる職場であれば、周囲に大きな迷惑をかけることなく、通院ができる可能性もあります。テレワークができるのであれば、治療の日をリモート勤務にさせてもらい、外出先で仕事をする手もあります。あきらめず、何かしら会社に使える制度がないか、探してみましょう。

  • 3 「不妊治療連絡カード」を提出する

    「不妊治療」のために休暇がほしいことを、自分の口からは言い出しにくい場合は、医療者に証明書を書いてもらって職場に提出するといいでしょう。「不妊治療連絡カード」は不妊治療中に配慮をお願いしたいことなどを事業主に示すための書類です。

  • 不妊治療連絡カード」は、厚生労働省の関連ページにあります。(仕事と不妊治療の両立について

  • まだ、厚生労働省が事業主向けにまとめた「仕事と不妊治療の両立支援のために」という資料があります。人事担当者にこのページを見てもらうのもひとつの方法です。

  • 4 場合によっては転職や休職も検討

     制度があり、周りの協力が得られるなら、いまの職場で働き続けられるでしょうが、どうしても難しい場合は、異動を希望したりテレワーク可能な職場に転職する方法もあります。ご本人がどういうキャリアを歩みたいかにも依りますが、最終的にはそういう結論もあるでしょう。

    仕事も治療も、どちらも中途半端になると悔いが残ります。「この1年間だけは不妊治療に専念すると決めて仕事は休職する」など、期限を決めて頑張るのもひとつの方法です。

「不妊治療」はいつまでやる?

  • 「不妊治療」を始めて、すぐに妊娠できればいいですが、なかなか妊娠できない場合、いったいいつまで続けるのか、どこまで頑張るのかを決めることにも悩みます。いくつまで妊娠できるかは個体差が大きいもの。初潮も閉経も人によって時期が異なり、まわりの人がいつまでだから…と決められるものではありません。

  •  ただ、ひとつの目安として、不妊治療の助成金が打ち切られる「43歳」という年齢があります。女性が妊娠しやすい年齢のピークは20代半ばといわれており、そこからは徐々に下降線をたどり、35歳を過ぎるとリスクのある高齢出産となります。

  • 40歳を過ぎると妊娠できる可能性は9%以下に。有名人が高年齢で妊娠・出産したニュースを見て「あの年齢でも出産できるんだ。じゃあ私も急いで妊娠しなくても大丈夫ね」と思うのは要注意。女性たちの外見はどんどん若くなっていますが、体のなか、そして卵子は歳をとれば確実に老化が進みます。そして、それは男性も同様です。これらの年齢の目安から、夫婦でいつまで治療を続けるのかは、ふたりでよく話し合うことが必要です。

  • 夫婦でキャリアプランを話し合う

    「不妊治療」の原因の半分は男性側の問題です。不妊治療は夫婦で気持ちが一致しないと前へ進めません。しかし、そもそも子どもを持つことに対して、二人の考え方がバラバラなケースがよくあります。互いに仕事をしている場合は尚更のこと。仕事とプライベートのキャリアプランをどうするのかを一緒に考えましょう。実はふたりが考えるライフプランがすれ違っていることも多いので、すり合わせをすることが大切です。

  • ライフプランとは、子どもをいつごろほしいということだけでなく、いつごろ家がほしい、引っ越ししたい、旅行したい、転職したい…などたくさんの事柄があります。それらを総合すると、子どもを産むのは何歳までが良い、などの時期も見えてきます。

    私はこれを「妊活みらい会議」として、ワークショップを開催したりしていますが、実施してみると想像以上に二人の気持ちがすれ違っているご夫婦が多く、お互い驚かれることがよくあります。

  • 本来はこういった話し合いを、結婚前にしておいた方が良いのですが、結婚してからであっても遅くはありません。互いの気持ちを伝え合い、そのご夫婦ならではの着地点を見つけることが大切です。

  • 意外に知らない「男性不妊」

  • 働きたい人が気持ちよく働ける職場に

     妊娠・出産にはタイムリミットがあります。いつでも可能なわけではありません。そう知っていても先延ばしにする人が多いのは、妊娠・出産をすると、これまでと同様に仕事をするのが難しくなることが多いからです。

    キャリアを重ねていきたいと考えた場合、たとえば「30歳までは仕事優先」などと思ってしまうのも仕方ありません。

  • 妊娠・出産をしても、女性が気持ちよく働き続けられる土壌があれば、妊娠することを躊躇する人は減るかもしれません。「不妊治療」をする人が減るのは素晴らしいこと。女性が子どもを産みやすい年齢の時、何の遠慮も躊躇もなく妊娠・出産ができ、そして職場に戻れること、子育てしながらもキャリアを積める社会になることを、切に願っています。

  • ※ 本ページに記載されている情報は2019年10月3日時点のものです

  • 松本亜樹子(NPO法人Fine理事長)

    監修者プロフィール 松本亜樹子(NPO法人Fine理事長)
    妊活体験者による妊活体験者のためのセルフサポートグループ、NPO法人Fine理事長。自身の不妊体験をもとに当事者の悩みに寄り添う活動を展開。不妊当事者同士、当事者と医療機関・行政機関・企業・社会とのパイプ役をめざす。

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