

社会保険、親権、遺族年金の受け取り…。事実婚カップルだと、この先どうなる?
法律上の届けを出さず、夫婦同様の関係を築く事実婚。夫婦別姓のままいられることなどで事実婚を選ぶカップルも、子供が生まれるなどのライフイベントに直面すると「このまま事実婚でいいのか」という迷いが生じるよう。実際のところ、社会保険や親権、病気になった場合やパートナーが亡くなった後の相続は、一体どうなるのでしょう。
監修:武石文子(行政書士) 取材・文:江尻亜由子意外にメリットも多いけれど、事前の対策が大切
一緒に住んでいてもお互いに婚姻の意思をはっきりさせていない同棲と違い、事実婚とは、カップル双方にはっきりと婚姻の意思があることが基本。主体的・意図的な選択によって婚姻届を出さずに夫婦としての生活を営み(同居している、家計が同一であるなど)、親族や仕事関係など周囲の人にも夫婦と同等に扱われている状態を指します。
では、事実婚が法律婚と異なる点は何なのか、見ていきましょう。
夫婦別姓
法律婚で最初の難関は、どちらか(主に女性側)の姓が変わること。銀行口座、クレジットカード、パスポート、各種免許証、携帯電話の名義など、いちいち変更手続きが必要です。それも平日しか手続きできないものが多く、何日も仕事を休む必要が。仕事上でも、名刺を変えたり旧姓と同一人物であることを周知させる作業が発生するなど、地味に膨大な労力がかかります。事実婚なら、その必要はありません。
社会保険制度では法律婚と同等の場合も
事実婚の扱いは、税制と社会保険制度とで異なります。
税制では、所得税の配偶者控除や贈与税の配偶者控除、相続税の配偶者税額軽減などは適用されません。また、医療費控除も家族としての合算ができません。
一方で社会保険制度(健康保険・年金)では、戸籍抄本や住民票などを添付して事実婚が認められれば、法律婚と同様の条件で国民年金の被扶養者(第3号被保険者)や、健康保険の被扶養者となることが可能。
ただしこれは法律婚同様、妻が130万円以上稼ぐなら、特に関係ありません。
子供が生まれたら、母親の姓に
子供が生まれて出生届を出すと、母親の戸籍に入って母親の姓に。戸籍に父親は記載されません。
父親との親子関係を記載するなら認知届を出す必要がありますが、それでも親権は母親のみです。
子供を父親の姓にしたい、親権者を父親にしたいなどの場合、下記の手続きが必要です。
●父親と子供が養子縁組を行い、子供を父親の戸籍に入れれば親権者も父親に。
●家庭裁判所に子供の「氏」の変更許可申し立てを行い、許可が出ると父の姓になり、父の戸籍に入ります。これだけだと親権は母親のままですが、親権変更の申し立てをして認められれば、父親が親権者に。
病気やケガの際には、要注意
配偶者が手術や入院をする場合、手術や治療の同意書にサインできない、病状説明ができない、ということも。付き添いができない、病状を教えてもらえないこともあり得ます。
また認知症などで判断能力が低下してしまった場合、その人の生活をサポートし財産管理を行う「成年後見人」になるには家庭裁判所への申し立てが必要ですが、事実婚の夫婦では申し立て自体ができません。判断能力があるうちに、お互いを任意後見人に指定できる「任意後見契約」を結んでおくのがおすすめです。
離婚でも戸籍に変化はないけれど、税金や年金には面倒が
事実婚でも、法律婚同様にお互いへの貞操の義務は発生します。そのため不貞行為などの原因を作った配偶者へ慰謝料請求を行うことも可能。
離婚に至った際はそもそも婚姻時に戸籍が変わらないので、履歴が残ることはありません。
財産分与請求権も法律婚同様に認められますが、共有の不動産を片方に給付する形にした場合などには贈与扱いになり、贈与税が発生する可能性も。裁判所に財産分与と認めてもらうなどの対策が必要になります。
年金の分割もできますが、収入が少ないほうの人が不利な形で一部のみの分割になる場合があるので、注意が必要です。
死亡の際は相続人になれない
事実婚の配偶者は、法定相続人になることはできません。父親が認知した子供がいれば子供が相続人になりますが、いなければ親や兄弟姉妹が相続人に。
そのため、夫婦それぞれが遺言書を作成し、お互いに「○○(財産)を△△(事実婚の配偶者)に遺贈する」と明記する必要があります。ただこの場合もそれぞれの親が遺留分の請求をすると、法律で保障された最低限の財産はそちらに相続されることに。
また配偶者が相続財産を受け取れた場合も、法律婚の場合に認められる配偶者控除がないので、基礎控除分を超えて相続税が発生すると、2割増しで支払うことになります。
生命保険の受取人になるには、手続きが必要
以前は事実婚の配偶者を死亡保険金の受取人として指名できないことが多かったのですが、遺言書で受取人変更ができるようになり、今では保険会社が求める条件がクリアになれば、認められることが多いようです。
遺族年金は、申請できる
厚生年金の被保険者が死亡した際には、事実婚の配偶者にも遺族厚生年金を支払うとされています。ただ、その配偶者と認められるための要件や必要書類を調べて提出し、日本年金機構の認定を受けることが必要です。
経験者によると、日常生活を送る上では(特に仕事をする女性は)不便を感じることが少ないという事実婚。しかし老後を迎えるにあたっては不利になることも増えてくる模様。
事実婚を選択する場合は、「事実婚夫婦の委任契約書」や遺言書をはじめとする各種契約書を作成したり、事実婚関係にあったことを証明する書類を保管しておくなど、早めに対策を考えておくことが大切です。
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お話を伺ったのはこの方 行政書士 武石文子さん
武石文子総合事務所主催。自らも事実婚で、一卵性双生児の母という経験を活かし、事実婚の契約などについて相談に乗ることが多数。電子書籍『「事実婚」のホントのことがわかる本』(すばる舎)などの著作やブログなどで、事実婚についての情報を発信中。