

半分ずつ、が一般的!?離婚したとき、二人の財産はどう分ける?
もしもパートナーと別れることになったら、二人の財産はどうすればいいのでしょう。実は、あまり知られていないかもしれませんが、「財産分与」という手続きがあります。婚姻中に築いた財産を、二人で公平に分け合うというもの。いったいどういうもので、どのような手続きを行うのか、その基本をプロが伝授します。
監修:梅澤康二(弁護士) 取材・文:佐野勝大共働きの場合、基本的に財産は半分ずつ分配される!
離婚にまつわるお金、と聞くと、慰謝料を思い浮かべる人が多いでしょう。けれどももうひとつ、離婚時に発生する重要な権利があります。その名も「財産分与」。結婚してから離婚するまでに夫婦が共同で築いた財産を、貢献度に応じて分配する制度です。
「財産分与は民法768条に定められており、『結婚期間中に夫婦で協力して形成・維持してきた財産は、その名義にかかわらず共有財産と考え、離婚する際は各貢献度に応じた分配をする』というものです。たとえ、片方に収入がないからといって、請求権がなくなるわけではありません」
と教えてくれるのは、プラム綜合法律事務所の梅澤康二弁護士。梅澤さんによると、財産分与は以下の3つに分けられるそうです。
財産分与の種類
・清算的財産分与
└二人の財産は二人で分けるべき、という考えのもと分与される財産分与
・扶養的財産分与
└離婚後の生計を補助する目的でされる財産分与
・慰謝料的財産分与
└慰謝料と財産分与をまとめて請求する、慰謝料を含んだ財産分与
「財産分与の中心となるのが、『清算的財産分与』。共働きの場合、たとえ二人の収入に差があったとしても、財産形成の貢献度は同等とみなされます。ですから、二人が結婚後に得た財産は、稼いだ割合にかかわらず、基本的にそれぞれ半分ずつ分配されるのです」(梅澤弁護士/以下同)
現金はもちろん、不動産や車や年金も夫婦の「共有財産」
では財産分与は、どのようなプロセスで行われるのでしょうか。
「まず必要なのは、現在どのような財産があるかを、正確に把握すること。あくまで申告制なので、隠されてしまうと分配額が減ってしまいます。正確な額を導き出すために、預貯金通帳のコピー、証券口座の明細、生命保険の保険金額、給与明細などもしっかりチェックしてください」
共有財産とみなされるのは、現金や不動産のほか、有価証券(株式など)、美術品や宝飾品、家具、年金、退職金。いずれも婚姻期間中に得たものであることが必要です。
「一方で、財産分与の対象にならないものもあります。たとえば、独身時代からの預貯金や結婚前から所有していた自動車、マンション、嫁入り道具はそのまま購入した側の財産に。また、結婚後に相続や贈与で得たものは、個人の特有財産になります。そのほか、日常的に使用する洋服やバッグ、アクセサリー、スポーツ用品なども、財産分与の対象外です」
こうした日用品は、誰が買っても「自分のもの」になるよう。結婚指輪など相手にもらったものは、「相手からの贈与」となり、そのまま自分の財産になります。また借金やローンといったマイナスの財産も、財産分与に考慮されるとか。このとき対象になるのは、結婚生活を送るなかで、夫婦の共同生活のために負った借金です。
「一般的なのが自宅などの住宅ローン。財産分与の価値を考えるときに、自宅の価格からローンの差額を引いて考慮するのが基本です」
いざというときのために知っておきたい!財産分与時の注意点
共働きで財布を別にしている場合は、とくに注意が必要。自分の預貯金が多い場合は、資産の開示をしないほうがいい場合もあるからです。まずは相手の金融資産の全体像を掴んでおいたほうがいいでしょう。
その際にチェックしたいのが、配偶者と自分それぞれの預貯金や有価証券、生命保険、不動産。共有財産をリストアップして総額と相手との割合がわかった時点で、相手に自分の財産を開示するかどうか決めるとよさそうです。
「ここまでわかったら、欲しい財産に優先順位をつけるステップへ。自分が欲しいものと相手が欲しがりそうなものを整理し、交渉に入るといいでしょう。実際に交渉を進める際には、メールやSNSなど、証拠が残るツールで行うとベターです。また、話し合いで決められなかった場合は、調停で解決を図ることになります。そうすれば相手と会わずに財産分与ができますし、話がまとまりやすいというメリットも。財産を渡してもらえない、というリスクが回避できるほか、相手の財産すべてが開示される可能性も高まります」
調停でも決着がつかなければ、離婚裁判に臨むことに。裁判になった際には、証拠が非常に重要になるとか。慰謝料的財産分与の場合はとくに、不貞行為や暴力、暴言、モラハラ、浪費など婚姻を継続しがたい重大な背信行為があった証拠を、できるだけ多く集めておくことが大切なのです。もちろん、給与明細や財産目録などの用意も忘れずに。
「とはいえ、統計的には離婚のほとんどが協議離婚。つまり財産分与も、多くのケースが協議でなされているのでしょう」と梅澤さん。また、財産分与は基本的に離婚と同時に行うものの、後からでも財産分与の請求は可能なよう。ただし離婚時から2年以内に請求しないと、無効になることを覚えておきましょう。
ただでさえパワーがいる「離婚」という大仕事。うまくいかなくなった相手と財産分与の交渉をするとなると、かなりの苦痛を伴うとか。必要以上に消耗しないためには、専門家に相談するのも有効な手段。「もしも」のときに困らないために、ぜひ覚えておきましょう。
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お話を伺ったのはこの方 プラム綜合法律事務所 梅澤康二弁護士
東京都出身、東京大学法学部卒。2008年に最高裁判所司法研修所修了、アンダーソン・毛利・友常法律事務所に入所。弁護士としてさまざまな経験を積み、2014年にプラム綜合法律事務所を設立する。現在は企業労務や紛争、M&A取引などの企業法務から、一般民事、相続問題にかかわる法律相談、刑事事件まで幅広いリーガルサービスを提供。講演やセミナー講師としても精力的に活動する。