

【2020年】所得税の控除額改正で、税金は減る?増える?
※令和2年は、新型コロナウィルスの影響で、確定申告の期限が無期限延長となっています(5/18現在)。まだ申告していない人は、こちらの文章も参考に、申告をしましょう。
税制改正により、2020年(令和2年)1月から、所得税の概要や、控除の内容などに改正がありました。その結果、税金は増える?それとも減るのでしょうか。パート・アルバイトの場合は?扶養の範囲や控除もどう変わったのか?など、所得税やその控除にまつわる改正内容をまとめました。年末調整や確定申告にむけて、自分が支払う税金がどう変わるのか知りたい人はぜひ参考にしてください。
令和2年1月1日以後適用される税制改正の主なもの一覧
令和2年度の1月から適用となった、「令和2年度税制改正」の中から、私たちの支払う所得税など、実際の収入に関係する部分で変更となったものについて、まずはざっと一覧表で見てみましょう。
控除の種類 概要 給与所得控除 給与を受けている人の控除額が変更 基礎控除 収入を得ている人全員が受けられる基礎控除額が変更 所得金額調整控除 850 万円の所得を超える人について、一定の条件を満たす人についての控除が新設 各種所得控除を受けるための扶養親族等の合計所得金額要件 配偶者と扶養家族の所得要件 源泉控除対象配偶者の合計所得金額要件 配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額要件 勤労学生の合計所得金額要件 家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例で、必要経費に算入する金額が変更 つづいて、それぞれについて説明していきます。
基礎控除額を引き上げ
所得控除されるものの中で、収入がある人に対して誰でも一律で控除されるものを「基礎控除」といいます。
基礎控除額は、以前は一律38万円でした。そして今回の改正によって48万円に引き上げられることになり、また一律ではなく、所得額に応じて次のように変わりました。
【基礎控除額】
個人の合計所得額2,400万円以下 → 控除額48万円
2,400万円超2,450万円以下 → 32万円
2,450万円超2,500万円以下 → 16万円
2,500万円超 → 0円
※国税庁HPより
所得によって控除額が異なり、所得額が2,400万円より多い場合には基礎控除の金額が下がり、2,500万円超になると基礎控除は0円になり、その分が増税となります。
給与所得控除を引き下げ/年収850万円の壁
サラリーマンなど給与所得者についてには、「給与所得控除」があり、これは、個人事業主などの場合に例えていうと、「経費」に該当するようなもので、その分が控除されるわけです。その金額が、改正によりこれまでよりも10万円引き下げられました。また収入額によって、次のように変更となりました。
給与所得控除の改定内容 給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)改正前、給与所得控除額
2017年~2019年分
(平成29年分~令和元年分)改正後、給与所得控除額
2020年(令和2年)分以降180万円以下 収入金額×40%
65万円に満たない場合65万円収入金額×40%-10万円
55万円に満たない場合55万円180万円超 360万円以下 収入金額×30%+18万円 収入金額×30%+8万円 360万円超 660万円以下 収入金額×20%+54万円 収入金額×20%+44万円 660万円超 850万円以下 収入金額×10%+120万円 収入金額×10%+110万円 850万円超 1,000万円以下 195万円(上限) 1,000万円超 220万円(上限) ※国税庁HPを参考に筆者作成
上記の内容を見ると、『年収850万円以下の人は、基礎控除が10万円増えて、給与所得控除が10万円減りますので、結果として控除される金額はプラスマイナス0円』、ということになります。
『年収850万円超の収入がある場合は給与所得控除額がこれまでよりも下がることで、課税額が増えてその分が増税』となります。ただし、「所得金額調整控除」が新設され、年収850万円以上の人にも一定条件の下で控除があります。これについては次の項で見てください。
なお、『年収2,400万円超の人は基礎控除の要件もありますので、更に増税』になります。
所得金額調整控除を新設
その年の給与等の収入金額が 850 万円を超える人のうち、次の要件を満たす人については、「所得金額調整控除」が新設されました。
・本人が特別障害者に該当する
・年齢 23 歳未満の扶養親族がいる
・特別障害者で、同一生計の配偶者または扶養親族がいる
また、所得金額調整控除額は次の通りです。
・年収850万円~1,000万円未満・・・(年収‐850万円)×10%
・年収1,000万円以上・・・15万円
これは子育て世帯や、障害者のいる世帯に配慮したものということになります。
ただし、この「所得金額調整控除」の適用を受けるためには年末調整などで「所得金額調整控除申告書」を提出する必要があります。年収850万円以上の人は、令和2年の年末調整からこの申請が必要になることを知っておきましょう。
個人事業主の控除の変更
個人事業主などの場合、基礎控除のほかに「青色申告特別控除」というものがあります。
このうち、これまでの青色申告特別控除額65万円について、電子帳簿保存によりe-Taxで申告している人は現行通り65万円となり、電子申告ではない場合55万円に引き下げとなります。
青色申告特別控除の種類 申告の方法 改正前 改正後 開業届と青色申告承認申請書の提出をして期限を守って確定申告をするなど、一定条件を満たしている場合 65万円 電子帳簿を保存しe-Tax(国税電子申告・納税システム)を使用して期限までに電子申告をしている等の条件を満たす人 65万円 上記以外 55万円 上記以外の場合 10万円 10万円 ※国税庁HPを参考に筆者作成
つまり『今回の税制改正で、「青色申告でe-Taxによって申告をしている人」だけが減税』となります。
配偶者特別控除や扶養親族等に関する変更
気になる、配偶者や扶養家族の合計所得金額の要件は、各10万円引き上げとなりました。ただし、「合計所得金額」とは、収入の合計額ではなく、パートやアルバイトや正社員も含む給与所得者の場合には「給与所得控除を差し引いた金額」のことです。この辺が勘違いしそうな所です。
そのため、給与所得控除の方は、以前の65万円から今回10万円引き下げられ55万円になったので、収入の金額でみるとプラスマイナス0円、つまり「以前と同じ」ということです。
各種控除等を受けるための扶養親族等の合計所得金額要件等の改正 扶養親族等の区分 合計所得金額要件 改正後 (給与所得者の年間収入額) 改正前 同一生計の配偶者および扶養親族 48万円以下
(103万円)38万円以下 源泉控除対象配偶者 95万円以下
(150万円以下)85万円以下 配偶者特別控除の対象となる配偶者 48万円超133万円以下
(103万円超201万6,000円未満)38万円超123万円以下 勤労学生 75万円以下
(130万円以下)65万円以下 ※家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例について、必要経費に算入する金額の最低保障額 65万円 55万円 ※国税庁HPを参考に筆者作成
なおこれも今までと同じですが、配偶者特別控除については、納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下(給与収入だけの場合には、年収1,220万円以下)であることが条件となっています。また900万円以下の場合、900万円超950万円以下の場合、950万円超1,000万円以下の場合で、配偶者特別控除の最高額が異なります。
つまり扶養控除や配偶者控除、配偶者控除などについては実質的な変更はない、ということになります。
あなたは増税?減税?
最後に、2020年1月からの税制改正で所得税がどうかわるのか、収入別にまとめました。
年収850万円以下の給与所得者は、基礎控除が10万円増えて、給与所得控除が10万円減るのでプラスマイナス0円で税金は同じ。
年収850万円超の給与所得者は、給与所得控除額がこれまでよりも下がることで、課税所得が増えるので、その分が増税。
年収2,400万円超の人は基礎控除の要件もあるので、更に増税。
青色申告でe-Taxによって申告をしている人だけが減税。
ご自分が対象となるか?をチェックして、改正にそなえてくださいね。
※令和2年は、新型コロナウィルスの影響で、確定申告の期限が無期限延長となっています(5/18現在)。まだ申告していない人は、こちらの文章も参考に、申告をしましょう。
※本ページに記載されている情報は2020年5月18日時点のものです
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執筆者プロフィール 森田 直子(保険ジャーナリスト)
保険・金融分野専門の執筆家で、庶民感覚のわかりやすい文体に定評がある。保険WEBサイト、保険会社ご契約のしおり、業界紙連載、書籍など執筆実績多数。大学講師や業界内外での講演など幅広く活動。保険業界メールマガジン『inswatch』発行人。書籍『保険営業で成長するための~無知の知のススメ』、『就業不能リスクとGLTD』、『あなたの保険は大丈夫?』など。