

【FP解説】生命保険料控除とは?わかりやすく確定申告時の計算方法を解説
※令和2年は、新型コロナウィルスの影響で、確定申告の期限が無期限延長となっています(5/18現在)。まだ申告していない人は、こちらの文章も参考に、申告をしましょう。
生命保険や地震保険などに加入していると、税金が軽減されるのをご存じですか?
保険料を支払っていると、所得から一定額の控除を受けられるので、所得税や住民税が軽減されるからです。
実際に控除を受けるには、年末調整や確定申告で申告する必要があります。
そんな、保険料控除のしくみについての解説と、保険会社などから送られてくる「保険料控除証明書」の見かたについて、コツをお知らせします。
生命保険料控除とは
生命保険料控除とは、所得控除のひとつです。一年間に支払った生命保険料(一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料)の金額に応じて、一定金額がその年の所得額から差し引かれます。つまり課税の対象となる金額が減ることにより、所得税や住民税の金額も低くなることになります。
生命保険料控除証明書の見かた/「旧制度」と「新制度」
毎年10月頃になると、保険会社から「生命保険料控除証明書」というものが郵送されてきます。ハガキの場合も封書の場合もありますので、この時期の保険会社から来た郵送物はきちんとチェックしましょう。
「生命保険料控除証明書」には、その年(1月1日から12月31日まで)に支払う保険料の明細が書かれています。その書類をよく見ると、「旧制度」または「新制度」という文字がありますので、まずはそれをチェックしてください。どちらか一方、または両方書かれている場合もあります。この「旧制度」または「新制度」によって、税金の軽減分を計算する計算式が異なっているのです。
そこが少々混乱しそうになる部分ですが、「旧制度」または「新制度」の2種類があることを知っておくだけでも、その後の理解が早くなります。
旧制度と新制度の違い
生命保険料控除の制度は、税制改正により、2012年(平成24年)以降に契約した保険(=新制度)と、それよりも前に契約した保険(=旧制度)とでは、控除される内容が異なっています。
大きな違いは、介護医療保険についてです。旧制度では一般生命保険料と合算していたものが、新制度では単独の項目になった、という点です(下表参照)。
旧制度と新制度の違い 旧制度
2011年(平成23年)
12月31日以前の契約一般生命保険料控除(死亡保険・医療保険・学資保険) 個人年金保険料控除 新制度
2012年(平成24年)
1月1日以後の契約一般生命保険料控除(死亡保険・学資保険) 介護医療保険料控除(介護保険・医療保険) 個人年金保険料控除 ※国税庁HPより筆者抜粋なお、例えば2011年12月に申し込んだ保険契約でも、正式な契約日が2012年1月1日付、となる場合があります。とくに月払い契約の場合は翌月1日が契約日となることが多いため、この場合は新制度が適用になりますので注意してください。正式な契約日は保険証券に記載されていますので確認するようにしましょう。また、契約の途中で「更新」や「転換」という方法での見直しを行った場合には、その時期に応じて、新制度に切り替わります。
生命保険料控除の対象外となるケースもある
生命保険料控除は、すべての保険契約が対象となるわけではなく、それぞれ次のような条件があります。
○一般生命保険料控除・介護医療保険料控除
保険金受取人が、契約者または配偶者、その他の親族(6親等以内の血族と3親等以内の姻族)となっている保険。
※ただし、財形保険や保険期間が5年未満の貯蓄保険、団体信用生命保険は対象外
○個人年金保険料控除
次のすべての条件を満たす、「個人年金保険料税制適格特約」を付けた個人年金保険。
・年金受取人が契約者またはその配偶者のいずれか
・年金受取人は被保険者と同一人
・保険料払込期間が10年以上
・年金の種類が確定年金や有期年金の場合、年金受取開始が60歳以降で、かつ年金受取期間が10年以上
※ただし、個人年金保険で「個人年金保険料税制適格特約」を付加していない場合や、変額個人年金保険は、一般生命保険料控除の対象になります。
なお、特約に関しては、特約の種類に応じて分類が異なります。例えば、災害入院特約や疾病入院特約の場合、特約部分の保険料は旧制度では「一般生命保険料控除」の対象に、新制度では保障内容ごとに「一般生命保険料控除」または「介護医療保険料控除」に分類されることになります。また、特約によっては対象外となるものもあります。
また、個人年金保険のうち「個人年金保険料税制適格特約」を付加していない場合や、変額個人年金保険は、一般生命保険料控除の対象になります。
生命保険料控除額の計算方法
実際にどれくらい税金が軽減されるのかをみていきます。生命保険料控除額は、下表の計算式で出すことになります。
生命保険料控除額
●新契約の所得税の生命保険料控除額(契約始期:2012年(平成24年)1月1日以後) 所得税 住民税 年間払込保険料額 控除される金額 年間払込保険料額 控除される金額 2万円以下 払込保険料全額 1万2,000円以下 払込保険料全額 2万円超 (払込保険料×1/2) 1万2,000円超 (払込保険料×1/2) 4万円以下 +1万円 3万2,000円以下 +6,000円 4万円超 (払込保険料×1/4) 3万2,000円超 (払込保険料×1/4) 8万円以下 +2万円 5万6,000円以下 +1万4,000円 8万円超 一律4万円 5万6,000円超 一律2万8,000円 ●旧契約の所得税の生命保険料控除額(契約始期:2011年(平成23年)12月31日以前) 所得税 住民税 年間払込保険料額 控除される金額 年間払込保険料額 控除される金額 2万5,000円以下 払込保険料全額 1万5,000円以下 払込保険料全額 2万5,000円超 (払込保険料×1/2) 1万5,000円超 (払込保険料×1/2) 5万円以下 +1万2,500円 4万円以下 +7,500円 5万円超 (払込保険料×1/4) 4万円超 (払込保険料×1/4) 10万円以下 +2万5,000円 7万円以下 +1万7,500円 10万円超 一律5万円 7万円超 一律3万5,000円 ※国税庁HPより筆者作成
控除額の目いっぱい以上の保険料を支払っている場合
仮にそれぞれ最高額の保険料を支払っているとすると、2011年(平成23年)以前の契約の場合、一般生命保険と個人年金保険、それぞれ年間10万円超(合計20万円超)の保険料を支払っている場合、控除される金額は5万円+5万円=10万円となります。
2012年(平成24年)以後の契約の保険料の場合は、一般生命保険で年間8万円超、介護医療保険でも8万円超、個人年金保険でも8万円超の保険料を支払っているとすると、控除される金額は4万円+4万円+4万円=12万円です。
この控除される金額に対して、これに所得税率や住民税率を掛けた金額分の税金が軽減される、ということです。この税率は、課税される所得金額によって異なります。なお、「課税される所得金額」とは、所得そのものの金額ではなく、例えば給与所得者の場合は給与所得控除額を差し引いた金額です。
所得税の速算表(平成27年分以降) 課税される所得金額 税率 控除額 195万円以下 5% 0円 195万円を超え 330万円以下 10% 9万7,500円 330万円を超え 695万円以下 20% 42万7,500円 695万円を超え 900万円以下 23% 63万6,000円 900万円を超え 1,800万円以下 33% 153万6,000円 1,800万円を超え 4,000万円以下 40% 279万6,000円 4,000万円超 45% 479万6,000円 ※国税庁HPより
一般生命保険9万円、介護医療保険4万円払っている人の場合
一般生命保険で年間9万円、介護医療保険で年間4万円の保険料(いずれも2012年<平成24年>以降に契約)を支払っている人の場合で計算してみます。
一般生命保険料控除額→4万円
介護医療保険料控除額→(4万円×1/2)+1万円=3万円
合計 4万円+3万円=7万円の控除額
次に課税される所得金額に応じて所得税率を掛け算すると、軽減される所得税額が計算できます。
○課税される所得金額が300万円の人の場合
→控除額7万円×10%=7000円の軽減
○課税される所得金額が700万円の人の場合
→控除額7万円×23%=1万6100円の軽減
つまり所得によって課税率がちがうので、高額所得者ほど税率が高い分、減税額が大きくなります。
更に住民税についても軽減されますが、住民税の税率については、自治体などにより異なるため、お住まいの各都道府県や市町村のホームページなどを確認してください。
確定申告が延長に!保険料控除の申告の時期
会社員の人は年末調整時に、「給与所得者の保険料控除等申告書」の書類に記入の上、その控除証明書を添付して会社に提出します。万一、年末調整の際に提出できなかった場合でも、確定申告で申請することができるので覚えておきましょう。また、個人事業主の人は、確定申告で申請をしてください。
今年はコロナウィルスの影響で、令和元年分の確定申告の時期は無期限延長となっています。下記をご確認の上、申告を検討してください。
国税庁 4月17日(金)以降の申告・納付の対応について
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kansensho/kigenencho.htm
いかがでしたか? 生命保険料による控除は決して小さな額ではありませんので、面倒と思わずに活用するようにしてくださいね。
※本ページに記載されている情報は2020年5月18日時点のものです
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執筆者プロフィール 森田 直子(保険ジャーナリスト)
保険・金融分野専門の執筆家で、庶民感覚のわかりやすい文体に定評がある。保険WEBサイト、保険会社ご契約のしおり、業界紙連載、書籍など執筆実績多数。大学講師や業界内外での講演など幅広く活動。保険業界メールマガジン『inswatch』発行人。書籍『保険営業で成長するための~無知の知のススメ』、『就業不能リスクとGLTD』、『あなたの保険は大丈夫?』など。