

嘱託社員とは?意味・給与・待遇の紹介&メリット・デメリット解説!
求人情報などで「嘱託社員」という言葉を見たことがある人もいるでしょう。よく耳にする契約社員とはどう違うのか、どういった待遇になっているのか、それぞれのメリットやデメリットについてもわかりやすく説明していきます。また「パートタイム・有期雇用労働法」の2020年4月1日施行によって、嘱託社員の待遇はどのように変わるのか?嘱託社員について知りたい人、勤務を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
執筆:栗谷 亜希子(社会保険労務士、産業カウンセラー)嘱託社員とは?
まずは、嘱託社員がどのように定義されているのか、契約社員などとの違いについて紹介していきます。「嘱託社員」とは何なのか、そのイメージを固めていきましょう。
嘱託社員の定義
嘱託社員とは、有期の労働契約で雇用される非正規雇用のひとつです。正社員・正職員(正規雇用)は雇用期間に定めがなく、定年まで働けるのに対して、有期契約である嘱託社員は、1年毎など(最長でも3年毎)契約を更新していくのが一般的です。
「嘱託」とは”仕事を頼んで任せること”を意味します。嘱託社員については法律による明確な定義はないため、企業によって採用条件や給与、待遇などは異なります。
嘱託社員と契約社員の違い
嘱託社員と契約社員は、基本的に違いはありません。法的な扱いにも違いがなく、各企業が定める雇用契約や就業規則の内容によって、呼び名や労働条件などが異なります。例えば、定年退職後に再雇用されて働く場合やシニア採用、医師や看護師などの専門的技能を理由に“嘱託社員”と呼ぶ、といったケースがあります。
労働時間の違いには、若干の傾向が見られます。契約社員が基本的にフルタイム勤務であるのに対し、嘱託社員は短時間や週数回の勤務など、労働時間の規定が短かかったり、臨時や非常勤となるケースもあるようです。ただし、いずれも企業によって異なり、事務系の仕事でフルタイムでも有期契約なら嘱託社員と呼ぶ企業もあります。求人情報を見る際には、雇用形態だけでなく、細かい点まで確認しましょう。
嘱託社員とアルバイトの違い
嘱託社員とアルバイトにも法的な違いはありません。ただ、アルバイトは学生や未経験者もOKとすることが多いのに対して、嘱託社員は経験や専門スキルを求められるケースが多いと言えます。アルバイトは副業(複業)として、嘱託社員は本業として従事する人もいます。
嘱託社員の給与・待遇
労働契約法第20条には「嘱託社員などの非正規雇用と正規雇用には、期間の定めがあることにより不合理な労働条件の差があってはならない」という項目があります。とはいえ、曖昧な部分もあったため、格差が生じていたのも事実です。
そこで、非正規雇用の待遇改善を目指す「同一労働同一賃金」のガイドラインが示され、大企業は2020年4月1日から、中小企業は2021年4月1日からスタートします(「パートタイム・有期雇用労働法」の施行)。
同一企業内で仕事内容や責任の程度が同じなら、雇用形態にかかわらず、基本給や賞与、福利厚生などで不合理な待遇面の差をつけてはならないとするものです。
嘱託社員の平均給与
では、これまでの嘱託社員の給与水準は、どのようなものだったのでしょう。嘱託社員だけを対象とする調査結果がないため、アルバイトなども含めた非正規雇用(正社員・正職員以外)の人がどの程度の給与をもらっているのか、正社員・正職員と比較してみます(表1参照)。
表1 雇用形態・性別の主な産業別賃金 (万円/月)
主な産業 男性 女性 正社員・正職員 正社員・正職員以外 雇用形態間賃金格差※ 正社員・正職員 正社員・正職員以外 雇用形態間賃金格差※ 全 体 35.11 23.25 66.2 26.53 18.79 70.8 建設業 35.43 27.73 78.3 25.04 20.68 82.6 製造業 33.02 22.49 68.1 23.39 17.13 73.2 情報通信業 40.48 31.65 78.2 31.80 23.00 72.3 卸売業・小売業 35.94 22.85 63.6 26.01 17.71 68.1 金融業・保険業 48.22 27.89 57.8 28.52 20.42 71.6 学術研究、専門・技術サービス業 42.21 33.95 80.4 30.70 23.38 76.2 宿泊業・飲食サービス業 28.83 20.85 72.3 21.80 17.62 80.8 医療・福祉業 35.27 23.43 66.4 26.88 19.64 73.1 ※正社員・正職員を100とした場合の正社員・正職員以外の賃金の割合
出所:「2018年(平成30年)賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)より抜粋
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2018/index.html
女性だけに注目すると、正社員・正職員以外の平均賃金は約18.8万円。正社員・正職員の平均賃金約26.5万円と比べて、その7割程度です。
賃金とは、残業代や休日出勤などの超過労働給与額を含まない、6月1か月分の所定内給与額をいいます。この調査はフルタイムで1カ月以上雇われている人を対象としており、時給や日給で働くパート・アルバイトも含まれます。
同じ非正規雇用でも産業別に見ると、金額に開きがあることがわかります。たとえば、学術研究、専門・技術サービス業は約23.4万円、情報通信産業は23万円に対し、製造業は約17.1万円、宿泊業、飲食サービス業は約17.6万円などです。
また、職種別の平均賃金データ(上記同調査URL参照)をみると、雇用形態に関わらず、専門知識や技術を必要とする職種の方が、賃金が高い傾向が見られます。
「同一労働同一賃金」がスタートすれば、同一企業内で仕事内容や責任の程度が同じなら、基本給だけでなく、賞与や各種手当などの待遇について正社員との不合理を解消していく必要があります。また、違いがある場合には合理的な理由とその説明が求められるため、賃金格差は縮まることが期待できるでしょう。
嘱託社員の待遇・労働条件
「正社員と非正規社員間の不合理な待遇差の禁止」には、福利厚生、教育訓練、各種手当なども含まれます。また、嘱託社員でも健康保険や厚生年金保険、雇用保険は、勤務時間や給与などの規定を満たせば加入できるのです。これらの保険料の半分は、企業の負担です。
なお、仕事上の理由による病気や、通勤・勤務中のケガを補償する労災保険はどのような雇用形態であっても、労働者については全額会社負担で加入することになります。
女性の場合は産休育休制度についてもよく確認しておきましょう。「嘱託・契約社員は産休育休がとれない」と考えている人もいますが、決してそんなことはありません。ただし、出産後の復帰を考えるときは次の契約更新があるかどうかもポイントになりますので、そのことを踏まえて相談しましょう。
嘱託社員のメリット・デメリット
それでは嘱託社員のメリットとデメリットについて見ていきましょう。もし嘱託社員として働くことを検討している場合はぜひ参考にしてください。
嘱託社員のメリット
子育て中や親の介護中、または他の仕事と掛け持ちなど、フルタイム勤務が難しい人でも、嘱託社員なら、勤務時間や勤務日数など希望の条件で仕事を見つけることができるかもしれません。
また、数年後には正社員を目指したい、独立して起業したいという人にとっても、有期雇用の嘱託社員の方が都合がよいかもしれません。企業によっては、正社員登用を前提に、まずは嘱託社員として採用するケースもあります。ただし、勤務時間や勤務日数に融通が利くか、副業が可能かどうかについては、企業によって異なるため、しっかり確認しておきましょう。
現在正社員の人が、副業で他の会社の嘱託社員として働きたいという場合には、双方の会社に確認する必要があります。
嘱託社員のデメリット
嘱託社員のデメリットは、雇用期間に限りがあること、つまりずっと働けるかどうか約束がされていないことです。
また、時間や日数を制限して働くなら、その分はフルタイムに比べてお給料が少なくなるかもしれません。「同一労働同一賃金」の施行によって、これまでのような「正社員と全く同じように働いているのに、お給料が少ない……」という問題は解消される見込みですが、中小企業は1年遅れでスタートしますので、それまで待遇面の格差が残るかもしれません。
なお、契約更新を1回でもおこない、通算5年以上嘱託社員として働いた場合は、更新のない無期労働契約を希望できるという「無期転換ルール」があります(定年退職後の継続雇用には例外あり)。雇用期間は無期になるものの、必ずしも正社員とは限らず、無期嘱託社員や限定社員として条件面に違いがある場合もあるため、確認が必要です。
将来的にその職業・職場で正規雇用を目指す人、退職後に自身の経験をもう一度活かしたい人、正規雇用のようにフルタイムで働くのが難しい人などが嘱託社員として働いています。
嘱託社員として就きたい仕事がある場合、待遇面はもちろんのこと、そこでどのような業務を任せてもらえるのか、どういった研修制度があるのか、そして将来正社員として雇ってもらえる可能性があるかどうかについても確認しておくとよいでしょう。
パートタイム・有期雇用労働法の施行で、非正規社員は、事業主に待遇に関する説明を求めることができるようになります。疑問点は曖昧なままにせず、しっかり説明を受け、納得した上で雇用契約を結びましょう。
嘱託社員の休業や契約更新、離職
新型コロナウィルスの影響で、嘱託社員は「休業中の給料(休業手当)は払われるのか?」「辞めさせられやすいのか?」「失業したら失業手当はもらえるのか?」など不安な声があがっています。それらの疑問について、順番にお答えします。
休業中の給料(休業手当)はどうなる?
休業手当とは、労働基準法第26条で定められているもので、「会社側の都合により休業させた場合、使用者は労働者に平均賃金の6割以上の手当を支払わなければならない」というものです。したがって、労働者であれば、嘱託社員でも会社は休業手当を支払う義務があります。
ただし、不可抗力(天災事変のような避けようのないやむを得ない休業など)による休業の場合は、「使用者の責」と判断されず、休業手当が支給されないこともあります。
なお、新型コロナウィルスの影響により休業となった場合は、基本的に労働者に手当を支払う義務が生じます。また、新型コロナウィルス関連において、休業手当が支払われない方に対し、国から直接手当を支給することが政府内で検討されていますので、引き続き情報収集してください。
嘱託だと契約更新が難しいのか?(辞めさせられやすいのか?)
嘱託社員の契約期間は、合意に至った期間なので、やむを得ない事由がある場合を除き、期間途中で解雇することはできません(労働契約法17条)。
有期雇用である嘱託社員で問題となるのが、「雇止め(契約が満了したときに契約が更新されないこと)」です。
厚生労働省の「平成30年(2018年)度個別労働紛争解決制度の施行状況」を見ると、「雇止め」に関して、総合労働相談コーナー(全国380か所に設置)に約1万2千件の相談が寄せられています。この10年間を見ても、1万数千件の相談があり、現実的に一定数あることがわかります。
このことから、嘱託社員は正社員よりも雇用が不安定とも言えるでしょう。このようなリスクを念頭においた上で、嘱託社員という働き方を選択する必要があるでしょう。
なお、雇止めは、基準(「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」厚生労働省)が設けられています。疑問がある場合には、総合労働相談コーナーなどで相談できます。
嘱託社員でも基本手当(失業給付)をもらえるのか?
嘱託社員は、基本手当(失業給付)をもらえないと考えている方も多いようですが、嘱託社員でも、失業給付などの雇用保険給付を受給できます。
前提条件は、雇用保険に加入していること、離職以前2年間に「被保険者期間」が12カ月以上あることです。なお、「特定受給資格者(倒産や解雇等による離職など)」や「特定理由離職者(期間満了で、更新がなく離職した場合など)」は、離職以前1年間に、「被保険者期間」が6か月以上で可とされています。
有期雇用の場合、契約時の更新の有無の明示や勤務年数、契約更新に至らなかった経緯や離職のタイミングなどによって、給付制限(失業給付を受けられない期間で3カ月)や受給日数が異なります。
例えば、契約更新により3年以上勤務してきたが、契約が更新されず離職した場合などは、給付制限なく、受給日数は一般より多くなるなど手厚い部分もあります(65歳以上で離職の場合は、高年齢求職者給付金として、一定の日数分が一括支給されます)。
嘱託社員として働く際には、雇用保険の加入と失業給付などに関する条件等を確認することをお勧めします。
なお、新型コロナウィルスの影響により、2020年2月25日以降に自己都合離職に至った場合は給付制限なしなど、失業給付について特例措置が設けられています。該当する方は、ハローワークで詳しく相談をしましょう。
※ 本ページに記載されている情報は2020年5月18日時点のものです
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執筆者プロフィール 監修:栗谷 亜希子(社会保険労務士、産業カウンセラー)
鉄鋼メーカーに入社し、人事部門にて勤務。退職後は、ストレスチェックやハラスメントなど組織のメンタルヘルスに関するコンサルティングや社員研修、カウンセリング、コラムの執筆などを行う。株式会社プラチナ・コンシェルジュ所属。