

住宅ローン繰り上げ返済のメリデメ解説!ローンの毎月の返済額・返済期間はどうなる?
住宅ローンの繰り上げ返済をする場合には、家計全体でどれだけお得になるかを考えて行うことが大切です。繰り上げ返済は、返済期間を早めるのか、毎月のローン返済額を減らすのかによってもお得度は変わります。本記事では、住宅ローンの繰り上げ返済の2つの方法について、それぞれのメリット・デメリットや、繰り上げ返済をした後のローン支払いについて説明していきます。
執筆:續 恵美子(ファイナンシャルプランナー)住宅ローン繰り上げ返済の2つの方法
住宅ローンの繰り上げ返済は、残高の全部を予定よりも先に繰り上げて返済してしまう方法もありますが、残高の一部を繰り上げ返済することも可能です。
一部を繰り上げする場合には、繰り上げ分として支払うお金をどのように充当するかによって、「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類に分けられます。
利息を節約できる「返済期間短縮型」
毎月の返済額はそのまま変わらず、残りの返済期間を短くする方法を「期間短縮型」といいます。
短縮された期間相当分の利息が不要になるため、その分、総返済額が減少します。
毎月の返済額を減額できる「返済額軽減型」
月々の返済額を減らす方法を「返済額軽減型」といいます。一回当たりの返済額が減ることで、総返済額は減少しますが、残りの返済期間は当初の予定通りで完済時期は変わりません。
「返済期間短縮型」のメリット・デメリット
「期間短縮型」には次のようなメリット・デメリットがあります。
返済期間短縮型のメリット
返済期間短縮型の繰り上げ返済では、大きく2つメリットが挙げられます。
ひとつは、金利の削減効果が大きいことです。繰り上げ返済金額、返済中のローン金利、返済を始めてからの経過年数などによっても繰り上げ効果は変わりますが、一般的には毎月少しずつ返済額を安くする「返済額軽減型」と比べると利息軽減効果は高くなる可能性があります。
もうひとつは、完済時期が予定よりも早まり、精神的な重圧が軽くなることです。
ローンの組み方にもよりますが、多くの場合は住宅ローンの完済時期とリタイア時期が近いこともあり、老後資金の準備に不安を感じるケースも少なくありません。住宅ローンの完済が早まれば、その後は老後資金づくりに集中することもできそうです。
ただし、繰り上げ返済をする金額やローン金利などによっては、期間を短縮できない場合や短縮できてもわずかの期間しか短縮できない可能性もあります。
返済期間短縮型のデメリット
返済期間短縮型のデメリットは、月々の負担額は変わらないため月々の家計で余裕が生じず、繰り上げ返済効果が見えにくいことでしょう。
繰り上げ返済のために貯蓄を取り崩した場合には、予期せずまとまったお金が必要になったときに貯金が足りずに困る可能性もあります。
また、住宅ローン控除に関するデメリットが生じる可能性もあります。返済期間が短縮されて、完済予定日が融資実行日から10年未満となった場合は、その年の年末から住宅ローン減税が受けられなくなります。
「返済額軽減型」のメリット・デメリット
「返済額軽減型」には次のようなメリット・デメリットがあります。
返済額軽減型のメリット
返済額軽減型の大きなメリットは、毎月の返済額が減るため家計改善に役立つことでしょう。
月々のローン返済額の減少分を教育資金や将来の老後資金のための貯蓄に回せるようになります。ほかにも、たとえば収入保障保険に加入するなど、将来的なさまざまなリスクへの対策がしやすくなるメリットがあります。
返済額軽減型のデメリット
返済額軽減型のデメリットはとくにありません。あえて言えば、期間短縮型と比べて利息削減効果が少ないことでしょう。
なお、どちらのタイプも、金融機関によっては繰り上げ返済手数料がかかることがあります。何度も繰り上げ返済をすると、それだけ手数料負担も増えてしまい、繰り上げ効果が相殺されてしまえばデメリットとなります。
繰り上げ返済で毎月のローンの支払いはこう変わる!
具体的にどれだけ返済負担の軽減効果があるのかを知っておくことも、繰り上げ返済を検討するための重要ポイントです。
ここでは仮に200万円を繰り上げ返済に充てるとして、期間短縮型と返済額軽減型のそれぞれのケースでシミュレーション(※)してみましょう。
【ローン条件】
当初借入れ金額:2,000万円
借入期間:35年
借入金利:1.35%(全期間固定)、元利金等返済
現在の毎月返済額:8万9,666円(ボーナス払いなし)
返済済み期間:5年
(※)シミュレーションは金融広報中央委員会・知るぽると「繰り上げ返済シミュレーション/しっかりシミュレーション」を使用しています。
支払シミュレーション1.返済期間短縮型に変更した場合
5年間住宅ローンを返済した後に、200万円を返済期間短縮型で繰り上げ返済したときのシミュレーションは次のとおりです。
繰り上げ返済しない場合
(A)繰り上げ返済する場合
(B)繰り上げ効果
(A-B)毎月返済額 8万9,666円 8万9,666円 0円 残り返済期間 30年0カ月 27年4カ月 2年8カ月 利息軽減額 なし 94万1,307円 94万1,307円 ※注: 繰り上げ返済の計算に手数料および諸費用は含まれていません。
出典:金融広報中央委員会・知るぽると「 繰り上げ返済シミュレーション/しっかりシミュレーション」より筆者作表
支払シミュレーション2.返済額軽減型に変更した場合
同様に、200万円を返済額軽減型で繰り上げ返済したときのシミュレーションは次のとおりです。
繰り上げ返済しない場合
(A)繰り上げ返済する場合
(B)繰り上げ効果
(A-B)毎月返済額 8万9,666円 8万2,892円 6,774円 残り返済期間 30年0カ月 30年0カ月 なし 利息軽減額 なし 43万2,152円 43万2,152円 ※注: 繰り上げ返済の計算に手数料および諸費用は含まれていません。
出典:金融広報中央委員会・知るぽると「 繰り上げ返済シミュレーション/しっかりシミュレーション」より筆者作表
今回シミュレーションした例では、同じ200万円を繰り上げ返済する場合でも、期間短縮型と返済額軽減型では利息軽減額に約50万円の差が出る結果となりました。
このことからも、同じ時期に同じ金額を繰り上げ返済するのであれば、期間短縮型の方がより有利であると言えるでしょう。
実際には繰り上げ返済手数料などがかかることもあります。繰り上げ返済を実行する前に、借入れしている金融機関にきちんとシミュレーションしてもらいましょう。
繰り上げ返済をするかしないかの見極め方
繰り上げ返済をしたほうが良いかどうかは個々の場合で異なりますから、すべての人に当てはまる正解はありません。それでも、繰り上げ返済をしてもいいかどうか見極めるポイントはいくつかあります。
繰り上げ返済に向いている人
・緊急事態に備えるお金がある人
・今後数年間のライフプランに対応できる預貯金や収入見込みがある人
・返済中の住宅ローン金利が1%以上の人
・返済開始から10年以上経過している人
まとまった金額を返済した後に予期せぬお金が必要になっても対応できるだけの預貯金や収入見込みがある場合には繰り上げ返済をしてもいいでしょう。
また、住宅ローン控除を受けている場合、返済開始から10年間(居住開始時期によっては13年)は年末時点のローン残高の1%が所得税から控除されます。この期間をすでに過ぎていれば住宅ローン控除を気にする必要はなく、繰り上げ返済してもいいでしょう。
繰り上げ返済に向いていない人
・他のローンを活用する可能性がある人
・資産運用ができる人
数年後に車購入や教育資金などでローンを利用する可能性がある人は、繰り上げ返済をおすすめしません。
マイカーローン、教育ローン、カードローンなどさまざまなローンがあるなかで、住宅ローンは他のローンに比べて金利が低く設定されているのが一般的です。他のローンを利用しなくてもいいように預貯金を確保しておくほうがいいでしょう。
また、繰り上げ返済するよりも、そのための資金を資産運用に回す方が良い場合もあります。資産運用に自信のある人で、資産運用で住宅ローン金利以上の利回りを期待できる場合には、繰り上げ返済を優先する必要はありません。
そもそも住宅ローンの返済額は入念な計画のもと決定されて、ある程度の覚悟を持ってローンを組んでいるはず。余裕資金ができれば計画を繰り上げるのは良い考えですが、軽減できる利息の額や今後のライフプランなどを検討しながらベストな方法を選ぶようにしてください。
※本ページに記載されている情報は2021年2月26日時点のものです
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執筆者プロフィール 續 恵美子(女性のためのお金の総合クリニック認定ライター。ファイナンシャルプランナー〈CFP(R)〉)
生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに――。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。生きるうえで大切な夢とお金のことを伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。
エフピーウーマン(https://www.fpwoman.co.jp/)